今年もっともフレッシュなカントリーのアルバムはナッシュビルではなく、なんとニューヨークから飛びだした。冴えないがどこか暗示的なリトル・ウィリーズという名の単発バンドの作品だ。ウィリー・ネルソンに敬意を表してこう名乗った5人組は、大西部のスイング・バンドを聞き込んでおり、長い手足の一流ミュージシャンたちをバックに、催眠術に誘われるような最高の女性シンガーがフロントを務めている。その眠たげな女性ボーカルも、際だつ彼女のピアノも、驚くほどノラ・ジョーンズに似ている。それもそのはず、まさしくこれはジョーンズ本人で、ブルースにおけるカントリーの一面を探っているのだ。このグループの他のメンバーはリー・アレキサンダー(ベース)、ジム・カンピロンゴ(エレキ・ギター)、リチャード・ジュリアン(ギター、ヴォーカル)、ダン・ライザー(ドラム)。2003年、ニューヨークのロウアー・イーストサイドにあるリビング・ルームで、自分たちが子供時代に耳にして楽しんでいたクラシックなアメリカ音楽を演奏するために結成したものだった。だから活動は控えめで、商業的な期待をせずにレコーディングとプロモーションを地味に行っている。本作には、心がうずくほど甘い「Easy as the Rain」を始めとするオリジナルと、ハンク・ウィリアムズ「I'll Never Get Out of This World Alive」ウィリー・ネルソン「I Gotta Get Drunk」や「Nightlife」、クリス・クリストファーソン「Best of All Possible Worlds」、タウン・ヴァン・ザント「No Place to Fall」、そしてリバー&ストラー「Love Me」(エルヴィス・プレスリーで有名)のカバーを収録。このアルバムは隅々まで、わずかに酔っているような、酒場の専属バンドがクラブで生演奏をしているような感触を行き渡らせている。特に「Lou Reed」はダークなロッカーが参加した可能性のある"牛転がし"(牛を転倒させるいたずら)のおもしろおかしい武勇伝だ。その卓越した音楽の才能だけでなく、心の奥底にあった音楽を演奏する喜びを思い出した演奏者たちの、あふれるような高揚感が聞き手にも伝わってくる優れた1枚。